社会の環境や顧客のニーズが目まぐるしく変化する現代、企業も変革が求められている。それは「低炭素、脱炭素」が叫ばれるエネルギー業界も例外ではない。
「お客さまのニーズに対応するため、大阪ガスは『変わり続けられる企業グループ』を目標に掲げています。その達成にはデジタル技術の活用が必須です。ビジネスとシステムの変革を両輪で加速するため、2022年4月にDX企画部を設立しました。グループ全体で攻めのDXから守りのDXまで幅広く取り組んでいます」(大西氏)
DX企画部の創設に合わせてデジタル人材の育成を本格化させた。従業員が自発的に学ぶ環境の創出を目指して経営戦略と連動した人材戦略を実施している。
ガスの自由化など大きな事業環境の変化を経験してきた同社。そうした変化に対応するため、「これまでも人材育成に力を入れてきた」と新居氏は振り返る。
「人事部として、事業環境の変化に応じて人事制度や育成体制を変革してきました。近年はデジタル化が進み、新しい変革にはデジタル要素が欠かせません。DX企画部との連携を強化し、DX教育と既存の教育体系をどう組み合わせるか、研修体系を日々再考しています」
大阪ガスはDX推進に必要な役割やスキルを階層ごとに設定し、それぞれに応じた人材育成に取り組んでいる。その中で「DXを主体的に推進する役割」と位置付けるのが、同社が定義する「DX中核スタッフ」だ。
(提供:大阪ガス)
DX中核スタッフは「デジタル人材」と「DX企画人材」の2つに分類できると大西氏は説明する。
デジタル人材は高度なデジタル技術の知識を持ち、実際のビジネス課題の解決に適用できる人材を意味する。専門知識を持つ人材は、情報システム部門を中心に在籍している。
一方のDX企画人材は、ビジネス領域に精通し、デジタル技術を活用して事業変革を推進できる人材を指す。デジタル人材の協力を得ながらプロジェクトマネジメントを行い、事業価値を最大化させることがゴールだ。DX企画人材の確保に課題があると考えた同社は、2022年度からDX企画人材の育成を目指すプログラムを開始した。
「DX企画人材育成」と「全従業員のDXリテラシー向上」を両輪で実施
DX企画人材向けの育成プログラムは、各事業部から10人前後、全体で40~50人を選抜して一年を通して実施する。選抜対象は、DX関連のプロジェクトに携わっている、あるいは今後担当する予定がある従業員だ。
研修内容は3つある。実際のプロジェクトにおけるOJT、有識者を招いた座学やワークショップ、DXに必要なスキルごとに達成度を確認する育成面談だ。研修は業務時間内に実施するため動画やオンラインでの受講を前提とし、参加者の負担を軽減している。
3つを同時に進めて中核スタッフの育成を目指す(提供:大阪ガス)
プログラムを円滑に進めるには周囲や管理職の理解と支援も欠かせない。そこで管理層や経営層向けの研修も併せて実施し、DXや人材育成の重要性を理解できる環境を構築している。
加えて大西氏は「育成プログラムは受講後のフォローアップを重視しています」と強調する。2023年4月には、グループ企業のオージス総研と連携してDX実践時の専門的な悩み相談に対応する「DX実践道場」を開設した。
受講者同士が交流を深めるコミュニティーの設置や強化講座も提供している。学んだスキルを業務に活用し、従業員が成長するための支援体制を整えている点も注目だ。
同社の人材育成体制は、経営層やDX中核スタッフを対象としたものだけではない。会社全体でDXを推進するには、全従業員のリテラシー向上が必要だ。同社は2021年度からDXの基礎を紹介する全従業員を対象としたeラーニングを実施している。社会環境の変化や社内の取り組みの影響もあってか、ここ数年でDXに対する従業員の考えに変化があったという。
「受講後のアンケートで、DXに対する興味関心度合いについて質問していました。2022年末の調査で、『DXに取り組みたい』という回答が約7割に達しました。今が良いタイミングだと考え、2023年度から希望者向けに本格的な自主学習プログラムを開始しました」(大西氏)
自主学習プログラムの一つとして選んだのが、グロービスの動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」だ。ビジネス知識からDX関連スキルまで1万5000本以上のコンテンツ※1を用意しており、DX銘柄企業においては94%が導入している※2。
※1:2024年7月時点。
※2:2023年6月時点算出。法人契約終了日の翌日までに新たに契約がある法人割合。
GLOBIS学び放題の特徴は、コンテンツのラインアップを始め、学びのポイントや学習体験の設計にMBAプログラムのエッセンスを含む点にある。グロービス経営大学院の教員や著名な経営者などが講師を務め、理論と実践のバランスが取れた内容が強みだ。
「GLOBIS学び放題のコンテンツは質が高く、またデジタル技術だけでなく経営に関する講座にも強みを持ち、幅広い内容が用意されています。DXの必要性を解説する講座も複数あり、習熟度にばらつきがある各従業員に対応できる点が魅力でした」と大西氏は選定理由を語る。
大阪ガスは、自社が定めるDX人材に求める6つのスキル軸(マネジメント、データ分析、開発、体験デザイン、業務知識、戦略・構想)をベースに、目指すべき水準に応じた7つ、合計約6時間の必須講座を設定している。
GLOBIS学び放題をはじめとした自主学習プログラムの導入は、大西氏らが想定していた以上に効果があった。プログラム終了後のアンケートでは受講者の約9割が高い満足度を示し、約7割が業務における意識や行動に変化があったと回答した。大西氏は「この行動変容こそ最も価値がある」と評価する。
具体的な成果として、入社2年目の若手従業員がガス導管工事の点検関連業務を効率化した事例がある。その従業員は、自主学習プログラムでの学びをきっかけに、現場点検票をその場で作成して決裁までをMicrosoft Teams上で完結させられるシステムの開発に取り組んだ。システムは2024年度に本格運用が始まり、プロセスの大幅な改善につながった。
「本人が元々持っていたスキルも影響していますが、学んだ知識を実際の業務改善につなげてくれた好例です。このような取り組みを拡充できるように、今後も後押ししていきます」と大西氏は笑顔を見せる。
約半年間で1人当たり平均10時間の学習を実現 大阪ガスが取り組んだ施策とは
プログラムを開始した2023年度は700人弱が自主学習プログラムに参加し、約半年間で1人当たり平均10時間の学習を実現した。必須講座の約6時間に加え、自主的に約4時間の追加学習を行ったことになる。希望制のプログラムとはいえ、このような研修は参加者の取り組む姿勢が二極化しがちだ。大西氏も「第一歩を踏み出してもらうことに苦心しました」と回想する。
受講を促すため受講者のコミュニティーを用意し、人気講座の情報や効率的な受講方法、受講者の声を発信した。「アンケート結果や受講者インタビューなど、参加者の生の声をコミュニティーで共有したことが学習意欲の高まりにつながったようです」と大西氏は分析する。
自主学習プログラムの2期目となる2024年度は約800人が受講している。参加者は新入社員から経営層まで幅広い。前回から引き続き参加する従業員がいる状況を踏まえ、修了要件を必須講座の受講から、「6時間の学習」に変更した。
デジタル人材の確保や育成に苦戦している企業が多い。大西氏は「デジタルは手段であり、使うことが目的ではありません」と強調する。「会社や事業単位で何をどう変えたいのか。個人や各チームの仕事をどうしていきたいか。改革の前にこれらを明確にすることが大切です。検討する順番を間違えてはいけません」
GLOBIS学び放題の導入を通じて、全社的なDX推進の基盤づくりに取り組んでいる大阪ガス。学習内容の実務への適用やより多くの従業員の参加を促すなど、今後もプログラムの改善と拡大を検討している。
またDX企画部と人事部は緊密に連携しており、人事部が主導する、3年目までの若手従業員が対象のフォローアップ研修でもDXプログラムを追加するなど年々改善も重ねている。新居氏は「社会のニーズに対応するには、若手だけでなくベテラン従業員にもリスキリングを促す必要があります。各施策を通して全体のスキル底上げにつなげたいと考えています」と展望を語る。
「変わり続けられる企業グループ」を目指す同社の取り組みは、DX推進や人材育成に課題を抱える企業にとっても参考になるだろう。
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