社員の発意をベースにした学びのプラットフォームで自分自身に問いを立てられる人材開発を
東京海上日動火災保険が取り組む「学びのカフェテリア」とは

東京海上日動火災保険株式会社人事企画部 人材開発室 課長代理 菊地 謙太郎さん

この記事のサマリー

  • 社員一人ひとりが当事者意識を持って成長に向き合う
  • 人を育てるのは「研修」ではなく「経験」
  • 机上の学習で終わらせない。OJTとの接続で実務に結びつく学びを
  • 大切なのは「誰もがWILLを持っている」と信じること
企業を取り巻く環境の不確実性が高まり、唯一の正解のない時代へと突入している今、多くの企業で人材開発のあり方を見直す動きが活発化しています。東京海上日動火災保険は階層別研修をほとんど廃止し、オンライン動画サービスのGLOBIS学び放題も取り入れた手挙げ式の学習制度を開始。同社の人事企画部 人材開発室 課長代理の菊地謙太郎氏は、これからの時代に活躍できるのは「自らに問いを立てられる人材」だと話します。社員の主体性を引き出すために人事ができることは何なのでしょうか。菊地氏にお話をうかがいました。
(※部署、役職は取材当時のものです)

社員一人ひとりが当事者意識を持って成長に向き合う

はじめに、貴社を取り巻く環境の変化について教えていただけますか。

当社は今年で創業143年になります。1879年に日本初の保険会社として誕生し、社会の発展と共に事業の形を進化させてきました。創業当初はまさに外国との交易が盛んになった時期ですが、海運業の発展と共に、社名にもなっている海上保険で国の発展を支えてきました。その後のモータリゼーションにおいて、日本で初めて自動車保険をつくったのも当社です。

そして今、「VUCAの時代」とも言われるように、世の中の不確実性が高まっています。少子高齢化で人口は減り、若者の車離れなども影響し、自動車保険のマーケットは縮小していく可能性が高まっています。新型コロナウイルス感染症の流行、自然災害の激甚化、技術革新による既存産業形態の変化など、さまざまなことが起きていますが、これらの変化を乗り越える唯一の正解は存在しません。これまでの勝ちパターンの踏襲では社会やお客様に価値を提供し続けるのが難しくなっているのは事実だと思います。

私たちは保険という無形サービスを取り扱っているので、いわば社員そのものがサービス。社員一人ひとりが成長しつつ、多様性を活かしながら価値を創造していかなければ、10年後、東京海上日動は存在しないかもしれない。そんな危機感も持っています。

そのような環境下において、貴社はどのような育成方針を掲げていますか。

2021年に新たな中期経営計画がスタートし、人材育成方針を刷新しました。それまでも「日本で一番人が育つ会社」を目指すことを謳っていましたが、一人ひとりの当事者意識をより高めるために「全ての社員が成長し続ける会社」とキャッチコピーを改めました。「当社という環境にいれば、自然と成長できる」という受け身の姿勢ではなく、全国の社員17,000人が発意・主体性をもって自ら成長するというメッセージを込めました。

人材開発において、どのような課題を感じていましたか。

会社組織は、個人の集合体です。成長と言っても、一人ひとりのモチベーションの源泉が異なることに難しさを感じていました。「じりつ」には自分で立つ「自立」と、自分を律する「自律」がありますよね。私たちは自分を律する、要するに自分に問いを立てることができ、考え、決めることができる人材が必要だと考えています。

オンライン環境下では、なおさら自分を律することが重要ですね。コロナ禍によって、リモートワークの状況に変化はありましたか。

コロナ禍になる前から、働き方改革の文脈でリモートワークの制度自体は整備されていましたが、全社員にノートパソコンを配布するなど、より柔軟に働き方を選べるようになりました。ただ、当社はお客さまと直接お会いしたり、扱う情報の機密性から職場に出社したりすることも多い業態なので、リモートワークが全てだとも思っていません。目的を持って働くことが大切で、出社したほうが価値を生み出すならば出社しても良いし、オフィスでわざわざ行う必要がないのであればリモートワークでも良い。従来の働き方を無意識的に是とせずに、何のためにその働き方を選ぶのかという基準を一人ひとりが持つことが重要だと考えています。

人を育てるのは「研修」ではなく「経験」

貴社では2021年4月に、新たな研修プログラム「学びのカフェテリア」をリリースされています。会社が指定する参加必須の集合研修から、社員自ら受講する研修を選ぶ形式へと変更された狙いについてお聞かせください。

自分自身に問いを立てられる人材を育てたいという思いが背景にあり、研修一つの受講に対しても「自ら決める」ことを尊重したいと考えました。社員の発意を認めますと口で言うのは簡単なのですが、残念ながら言行が一致していないことが企業には往々にしてある。そこを一致させるためには、人事部も覚悟を決めなければならないと思いました。その結果、階層別研修は新入社員向けと新任管理職向けだけを残し、その他は全て任意参加としました。

新入社員研修と新任管理職研修を残したのはなぜですか。

いずれも初期教育が必要なタイミングだからです。そのタイミングで必要となる知識やマインドセットは、会社として全員に届ける責任があると思っています。以前行っていた集合研修は、リーダーシップ開発のようなコンピテンシーを磨くものが中心で、評判は決して悪くなかったんです。しかし、そんな階層別研修を担当するなかで、世の中の変化を感じていました。

一つは、女性の活躍。これまでの階層別研修の受講者は男性中心でした。ジェンダーギャップの解消を加速させる中で、女性参加者も増え、集合型の研修を続けることで、ご家庭にまで大きな負担をお掛けすることもありました。もちろん、今まで男性にも集合することによる負担を掛けていました。これを当たり前とすることは無くしていきたい、そう思っています。

次に、参加者のモチベーションのばらつき。限られた機会として多くの学びを得ようとしている社員だけではなく、会社に言われたからとやらされ感を感じながら受講している社員も一部混在していた。特に後者は前者にもネガティブな影響を与える可能性が高く、健全ではないという思いがあり、このカフェテリア構想のきっかけになりました。

「学びのカフェテリア」のコンセプトについて教えていただけますか。

コンセプトはまさに「自ら決める」です。やらないことも含めて、自分で決める。会社は学ぶ環境を整え、社員に自由と責任を提供します。

もう一つは、学びを通じたコミュニティの形成です。これまでの階層別研修などは、社員本人にとっては数年に一度の機会であり、受講者同士のつながりも比較的弱いものでした。全国にさまざまな強みや魅力を持った人材がいるのに、それではもったいない。働く地域によっても異なる考え方を発見したり、尊敬できる仲間と知り合ったりすることで、刺激やつながりが生まれます。

さらにもう一つ、単なる研修からの脱却を目指しました。逆説的ですが、学習環境はこれまで以上に整えつつも、研修頼みになってほしくないという思いがありました。研修を受けることをゴールにしていては、学びがその後に活きません。研修を受けた後にどんな仕事をしたいか、どんな経験をしたいかというところにつなげていくことが大切なのです。私たちは、「『学びのカフェテリア』における「学び」とは、研修ではなく、経験です」と説明するようにしています。研修はあくまできっかけでしかなく、人は経験によって育つのです。自分が目指すゴールへの道中で背中を押すものが「学びのカフェテリア」であってほしいと思っています。

「学びのカフェテリア」は、どのような内容ですか。

2021年度は、約40種類のコンテンツを用意しました。役職や勤務地に関係なく、全社員が発意ベースでプログラムを選択し参加できます。コンテンツは「BASIC」と「EXPERT」に分かれており、BASICがこれまで実施していた階層別研修に当たります。パッケージプログラムになっていて、マネジメント層向けの「組織運営パッケージ」、中堅社員向けの「組織牽引パッケージ」、若手層向けの「自律×協働パッケージ」といったように、役職レベルを緩やかに意識した構成になっています。もう一つのEXPERTはいわば「アラカルト」で、「クリティカル・シンキング」や「タイムマネジメント」など本人が学びたい領域を深められます。BASICもEXPERTもプログラム特性に応じて「GLOBIS 学び放題」のコンテンツを活用しています。

これまでの階層別研修では、「この役職はここまで学べばいい」といった成長の上限を会社から提示してしまっていたのかもしれません。成長意欲の高いメンバーにとって、役職に基づいて求める能力に線を引く行為は、モチベーションを下げかねません。BASICのパッケージプログラムでは対象となる階層を緩やかに設けていますが、本人の意欲次第でどのパッケージプログラムでも参加することができます。

机上の学習で終わらせない。OJTとの接続で実務に結びつく学びを

「学びのカフェテリア」を設計する際、数あるサービスの中から「GLOBIS 学び放題」を採用した経緯を教えてください。

もともと当社では、サービスが開始された2017年頃からGLOBIS学び放題を導入しており、社内の自己開発プログラムの一つとして社員に提供していました。ただ、このときはあまり活用の設計をしていなかったのが正直なところです。2021年に「学びのカフェテリア」を整備するタイミングで、学びを補完する位置づけとして強く利用を推奨するようになりました。

「学びのカフェテリア」のパッケージプログラムは、単なる研修ではなく現場でのOJTを軸に設計しています。現場で出てきた課題を解決する手段の一つとして、GLOBIS学び放題で良質なインプットを手軽に行い、そこで学んだことを実践で試してみる。「学習」と「経験」を行き来するのにピッタリです。

例えば、ロジカル・シンキングはビジネスにおいて重要と言われていますが、単体で学んでもどこで使ったらいいのかわからないと、そこで学びが終了してしまいます。他の多くのフレームワークも同様です。パッケージプログラムの中に組み込んだことで、実務に結びつきやすく、学びを体に染み込ませることができるようになりました。

また、GLOBIS学び放題は、ラインナップメニューを通じて世の中のトレンドをキャッチできるところや、小まめにインプットとアウトプットができるところも強みだと感じています。

どれくらいの社員がGLOBIS学び放題を利用していますか。

もともとは100人程度の利用者数でしたが、パッケージプログラムにGLOBIS学び放題のコンテンツを組み込んだことで、任意で学習する人が増えました。「学びのカフェテリア」を開始してからまだ1年経っていませんが、のべ1,000人が利用しています。

以前、新入社員向けにマイクロラーニングのサービスを導入したことがありましたが、利用率は数%でした。どんなにいいサービスでも、会社から一方的に与えられるものはあまり使われないのだと実感しました。ならば、本人の発意に寄り添うような形で提供していこうと、手を挙げた人に使ってもらうことにしました。

学びのカフェテリアやGLOBIS学び放題を受講される方に特徴はありますか。

やはり自分で参加を決めていますので、学習意欲や成長意欲のある人がほとんどです。一部には「何を受けていいかわからず、上司に薦められたから」という人もいますが、そういう人も含めたコミュニティとしてこのカフェテリアが機能すればいい。きっかけは外的動機付けでも、学ぶうちに内的な発意が見つかればいいと思っています。

明確なキャリアビジョンがある人も多いですね。ただ、人によって見据えている時間軸は異なっていて、目の前のミッションに対して理想を持っている人もいれば、将来のために準備したいという人もいます。

キャリアビジョンが特にない、受け身の社員に対してはどのように考えていますか。

人によってモチベーションの源泉が違うので、組織内の関係性やコミュニティをうまく活用して、刺激を届けたいと思っています。「学びのカフェテリア」は、基本的にはどんな人が何を受講しているかがオープンになっています。例えば、そこに知っている人や、同じような境遇の人がいると勇気が湧くと思うんです。やりたいことは明確ではないけれど、まずは試してみようと一歩踏み出すきっかけにもなるはず。

また、当社は年に4回、上司とMBO面談をする機会があるのですが、そこでキャリアビジョンについて対話します。キャリアビジョンは、どうやって働いていきたいかという内的キャリアと、どんな部署で働きたいかといった外的キャリアとがあります。その対話のなかで出てきたWILLの種のようなものを、マネージャーのサポートを得ながら、学びにうまく接続することが次のチャレンジだと思っています。

大切なのは「誰もがWILLを持っている」と信じること

GLOBIS学び放題の導入による、社員の反響はいかがでしたか。

まだ「学びのカフェテリア」を始動して1年ほどで、具体的なデータを分析できているわけではないのですが、仕組みやプログラムへの反応は概ね好評です。9割近くのコンテンツは定員が埋まってしまい、「定員を増やしてほしい」と社員から要望が出たほどです。

「学びのカフェテリア」は、会社としては実は社員に厳しいことを言っていると思うんです。自律せよ、自分で決めよ、という呼びかけは、受け身な方からするとあまり心地よくないですよね。ただ当社を含め多くの日本企業は、会社の事情で人を動かすという側面がこれまでやや強すぎたと思います。もちろんビジネスなので、会社としての指示や要請も必要なのですが、それは本人にとってはWILLでもCANでもなく、MUSTに近い。MUSTを出発点に奮起できる人もいるかもしれませんが、それだけでは立ち行かなくなっています。

今後の人材開発について企画していることや、今後取り組みたいことがあれば教えてください。

人の成長にデジタルをもっと活用したいですね。例えば、学びのカフェテリアに、リコメンド機能があってもいい。コンテンツが豊富だからこそ、何を選べばいいかわからないという状態にもなりやすいからです。自分の学習傾向に基づいてはいるけれど、変に視野を狭めることのない提案をしてくれる機能があると、好奇心を掻き立て、自身の興味範囲を広げるきっかけになると思います。また、先ほど「研修に留めない」という話をしましたが、社内で完結することなく、社外にも学びを取りに行く橋渡しになるような仕組みを検討したいです。

人材開発に関わる担当者にとって大切なことは何だと思いますか。

「誰もがWILLを持っている」という前提に立つことだと思います。社員を信じていなければ、社員も会社を信じてくれることはないでしょう。会社が言行を一致させ、性善説に立つ。ただ、性善説に立つためには本当に社員を信じないといけません。キャリアビジョンがなかったり、学びの意欲が低かったりする社員にレッテルを張り、矯正しようとすることは、あってはならないと思います。「変わらない人は悪い」「成長しない人は悪い」という構造をつくってしまうと、ますます発意を失ってしまいます。

今回、GLOBIS学び放題の活用や「学びのカフェテリア」という仕組みの導入によって、社員の声がこれまで以上に聞こえてくるようになり、関心領域も見えてきました。これまでは会社からのある種一方的な供給しかしてきませんでしたが、社員のニーズを加味しながら人材戦略を立てることができるようになってきています。答えを会社が提示するだけの時代は終わりました。社員一人ひとりに答えがあり、それを信じ、サポートできる人事でありたいですね。

東京海上日動火災保険株式会社

事業内容 :
1. 損害保険業
2. 業務の代理・事務の代行
3. 確定拠出年金の運営管理業務
4. 自動車損害賠償保障事業委託業務

社員数 : 17,176人(※2021年4月現在)

グロービス学び放題の利用目的 :
全社公募

会社HP : https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/

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