
【悩み別】テレワーク時代の
課題を解決
する
「大人の学び動画」3選
「言いたいことがうまく伝わらない」「批判的な意見を出しにくい」「部下の様子がわからない」……。
ビジネスコミュニケーションのオンライン化が進む今、効率的で生産性の高い働き方が期待されている。一方、顔を合わせて会話をしていたときには感じなかった課題に、直面する人が増えている。
オンラインとオフラインコミュニケーションの違いは何なのか。そして課題を克服するためには、どのような思考やスキルが必要なのか。3つのお悩みを例に、グロービス講師・許勢仁美氏に話を聞いた。

ニューノーマルで顕在化した
コミュニケー
ションの課題
許勢 コロナ禍でテレワークを導入したり、オンライン営業やオンライン会議を取り入れたりする企業は増えました。 しかし、グロービスの受講生やお取引先の方からは、オンライン化によって顕在化した“コミュニケーションの課題”について、多くのご相談をいただくようになりました。
「自分が伝えたいことが相手に伝わっていないんじゃないか」「相手の言いたいことを理解できていないんじゃないか」と、不安に感じる方が増えているんですね。
では、オンラインとオフラインのコミュニケーションの違いは、どこにあるのか。
まず考えられるのは、情報量の違いです。対面のコミュニケーションでは、無意識に五感を活用していますが、オンラインの場合は聴覚と視覚に情報が限定されます。
画面越しだと視覚から得られる情報は平面的なので、聴覚の比重が増し、音に気を取られます。その結果、相手の表情や場の雰囲気をしっかりと読み取れない、と感じる方が多いのだと思います。
次に、実際のコミュニケーション量が減っていること。オンライン会議では、いろいろなことを“省略する”傾向が加速しています。
対面の会議や面談であれば、前後の時間に雑談をしたり、ちょっとした情報交換をしたりできますよね。しかしオンラインの場合、アジェンダがなければ流会にする、早く終わったら解散するといったことがあります。
効率的な会議は歓迎される一方、「本当はもっと議論すべきことがあったんじゃないか」と、不安を感じる方が多いのかもしれません。

もちろん、ニューノーマル以前にも、コミュニケーションの課題はありました。しかし、オンライン化によって、当たり前だったことに疑問を持ち、意識するようになった。 これは多くのビジネスパーソンにとって、良いきっかけです。
そこで、オンラインコミュニケーションの3つの課題を例に、どのような思考やスキルが役に立つのか、解説していきたいと思います。

会議で自分の考えを上手く伝えられない人は、考えを整理できていない場合が多いですね。そこで、「クリティカル・シンキング」という思考法を取り入れてみると良いでしょう。
クリティカル・シンキングとは、物事を適切な方法で、適切なレベルまで考えること。日本語では、「批判的な思考」とも表現されています。
ここで批判するのは他者ではなく、自分の考えや行動です。一度立ち止まって、自身を批判的に見ることで、課題の本質を探っていくことを目的としています。
時間が短い傾向のオンライン会議では、事前にしっかりと準備することが重要です。会議のアジェンダに対し、賛成か反対か。 なぜその結論に至ったのかなどを整理するために、ピラミッド・ストラクチャーというツールで書き出してみましょう。

一つひとつ、主張に対する根拠を書き出してみると、自身の主張の妥当性が検証できます。
またオンラインの会議では、視覚情報が得にくいという話をしました。そこで、ホワイトボードや画面共有などの機能を使い、伝えたいことを可視化することで補完するのも良いでしょう。
そして会議の最後には、アジェンダの一つひとつについての方向性と、ネクストアクションを確認しておきましょう。

「私の意見は理解していただけましたか」というのは、なかなか聞きにくいものです。 でも、最後に全体の方向性として確認すれば、自分の伝えたい意見が正しく反映されているのか、齟齬がないかを確認できるはずです。
また、上司や目上の人との会議では、確認しにくい場合もあるでしょう。その場合は、質問という形で確認してみてください。
「アジェンダ2はこういうふうに理解しましたが、間違っていないでしょうか」といった聞き方をすれば、役職や年齢を問わず、スムーズな確認ができますね。

社会人経験を積んだ人ほど、経験に裏打ちされた尖った強みを持っていますが、それは「思考の癖」とも言い換えられます。
癖が良い方向に出ると強みになり、良くない形で出ると課題になる。 自分の思考の癖をうまくコントロールしていただくためにも、世代や役職を問わず、クリティカル・シンキングで基本の型を学ぶことが重要です。
また、何か問題が起きたときに本質を掘り下げ、再発防止策をスピーディーに実行していくときなどにも、非常に有効な思考だと思います。

複数の人が集まる場には、メリットもあればデメリットもあります。話が本筋からそれていく、特定の人だけが発言する。 合意に至ろうとするプレッシャーから批判的な意見が言えない「グループ・シンク」の傾向も、オンライン化が進み顕著になっているといえます。
どのように会議を進行すれば、より良い議論を引き出し、ゴールまでたどり着けるのでしょうか。これには「ファシリテーション力」というスキルを身につけることをおすすめします。
ファシリテーターの仕事は、いわゆる議事進行役だけではありません。人が集まるメリットを最大化し、デメリットを最小化することが求められているのです。
特にオンライン会議は効率化、省略化の傾向にありますので、会議の前の準備が重要になってきます。

まず論点を整理しておくこと。この場のゴールは何か。何について話をして、何について話さないのかを意識することです。
そのうえで、参加者を理解する。会議に参加するからには、一人ひとりに期待された役割があるはずです。逆に役割がないのであれば、任意参加にするなどの差配をする。そういう姿勢自体が、より良い場を作ろうというメッセージになります。
またオンライン会議の場では、視覚情報が少ない分、“誰が参加し、誰が参加していないか”ということにアンテナを張っておくことも重要です。
発言がない人には「チャットにコメントしてください」「後からでもメールでご意見を送ってください」というように、あなたの参加を求めているという姿勢を見せていくことが大事なんです。
逆に、発言しすぎる人には「ご意見がたくさんあると思いますので、別途お時間をいただきますね」というように声をかける。「あなたの意見は貴重です。でもこの場ではないんです」というメッセージを発すると良いでしょう。

最後に、ネットワーク型のコミュニケーションを作ること。ファシリテーターは、どうしてもひとりですべてをコントロールしようと思いがちです。
でも、生産的で効率的な場を作るという意味でいえば、一対一の関係を多く作るよりも、参加者同士の繋がりや関係が重要になってきます。
あえて雑談や自己紹介の時間をとって共通項を見つけてもらうなど、横の繋がりを生む仕掛けを作っておくと良いでしょう。

役職や年齢が上がるにつれて、ファシリテーターを担う機会は増えますよね。期待も当然高まり、プレッシャーも大きくなります。そうなる前に、苦手意識をなくし、場数を踏んでおくことをおすすめします。
また、会議に参加する側の方も、ファシリテーターの役割を理解しておけば、議論がより深まり、組織として強くなれると思います。

オンライン化が進む中で、マネジメント層の方からのご相談も増えています。そもそもチャットなどのツールが苦手で、文字だけの意思疎通が難しいと感じている方。 部下たちの様子が見えないと感じる方が多いようです。
そこで、解決に役立つスキルは「質問力」です。質問というのは、一般的には自分が持っていない情報を相手から引き出すことですが、グロービスでは「自分も相手も答えを持っているとしても、質問しましょう」と言っています。
なぜなら質問というのは、コミュニケーションを加速させ、相手の思考を刺激するものだからです。
例えば、自分の考えをただ伝えるだけでは、部下は本当に納得しているかはわかりませんね。そこで、質問という形で相手にも考えてもらい、こちらの意図への理解を深めてもらうことが重要です。
逆に、上司から部下への質問で、やってはいけないのが「詰問(きつもん)」です。
「A社さんの案件、どうなっているんだ?」。自分には情報がなく、状況がわからないと不安になり、つい相手を問い詰めてしまうことがありますね。
しかし詰問をしても、多くの部下からは謝罪しか返ってきません。問題に対処するための正確な情報が必要なわけですから、これでは解決にはなりませんね。こういうときは、感情と問いを切り離して考えてみましょう。

不安である、という自身の感情は一旦横に置く。そのうえで、相手の立場に読みかえて話しやすい問いかけをし、情報を収集していくことが重要です。
また、チャットのコミュニケーションでは、なるべく短く伝えなくてはいけないというプレッシャーを感じる、どこまで聞いていいのかわからない、などと感じる方も多いようです。
しかし、コミュニケーションは完璧じゃなくてもいいんです。私たちは、論理だけで動いているわけではないですよね。感情の部分で、この人の話を聞こうとか、もうちょっと手伝ってあげようといった、関与の気持ちを引き出せるかどうかが重要なんです。
相手が読みにくくなければ、テキストが多少長くてもいいし、ちょっとキツイ言葉になってしまったと思ったら、足りない言葉を補えばいい。スタンプや絵文字などを使うのも良いと思います。
管理職の方が率先して“完璧ではない自分”を見せていくと、フラットなコミュニケーションをとっていいんだと、メンバーの安心感につながりますね。

質問力というのは、マネジメント層の方だけではなく、メンターをする方、新入社員のサポートをする方にもおすすめのスキルです。
また営業の場面でも、お客様が持っている情報を引き出す、お客様に検討意向を聞く、といったときに役立つスキルだと思います。
学びの中の“小さな気づき”を、
自分の仕事に
当てはめていく
「GLOBIS学び放題」の動画で全体像を学んだ後、「何からはじめたら良いですか」とご相談をいただくことがあります。でも、そんなに気負うことはありません。
動画の一つひとつに、ちょっとしたティップスや気づきがあります。
例えば、クリティカル・シンキングでは、論点や考えるべきことを「イシュー」と呼んでいます。今、この場で話されていること、自分たちが解決すべき課題は何か。イシューを意識することで、その後の方向性が見えてきます。

仕事の中でごく当たり前にやっていることだからこそ、立ち止まって意識してみることが重要なんです。まず、“自分の仕事の状況と似ている”と思ったところから取り入れ、小さく試してほしいと思います。
今年起きた働き方の変化を、脅威と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
私自身、コロナ禍によって働き方が変わり、いろいろなチームを兼務しながら仕事をする中で、壁にぶつかることもありました。しかし、変化が大きいときこそ「この先どんな機会が自分たちに待っているのか」という発想を持つことが大事だと思います。
自分が問題だと感じていることは、誰かにとってのチャンスかもしれない。主語を変えながら多面的に捉え直すことで、問題をクリアする目的が見えてきます。
そして問題にぶつかったとき、自分の思考の癖を見つめ、基本の型に立ち返ることは、前に進むための力になります。
仕事がはかどる自分に近づくために、ぜひ学びを始めてみませんか。
取材・執筆:安住久美子 編集:奈良岡崇子 撮影:タカハシアキラ デザイン:小鈴キリカ